おれは大工のダイ。町の牧場に大きな風車を作ろうと言う話が持ち上がったので
いま、カパラさんの牧場に来ている。
先週、「ハモニカタウンのつどい」があって、
町をもっとゆたかにする方法はないだろうかという議題が上がった。
そこで、牧場主のカパラさんが口を開いた。
カパラ「風車というものを作るのはどうだろう。昔、西の土地で見たことがあるんだが
あれは粉をひくことができるらしいぞ」
みながカパラさんの方を見て不思議そうな顔をすると、発明好きのパットが続けた。
パット「うむ、わしも本で見たことがある。たしかアレは、風の力で羽根車を回転させて、
動力を得ることができるんじゃ。設計図も見たことあるのう」
タオ「水の力を利用した水車…というのも、あるそうです」
ハーバル町長の顔がみるみる輝きだした。
ハーバル「なるほど!その風車で粉をひいて、その粉でパンや
コーヒーなどを作れば、この町もさらに発展するというわけなのだね!」
それぞれが顔を見合わせて、うんうんと頷きあった。
ギル「それでは父上、さっそく風車を作る計画をたてましょう
まずは風車のことをくわしく調べることにしましょう」
若者たちがすぐに役割分担を始めた。
最近、こいつらもずいぶん頼もしくなってきたもんだと思う。
少し前まで、そろって泣きべそをかいていたガキどもが…。
いつから親の手をはなれるようになったのか…。
そんなことを考えながらぼんやり牧場を眺めていると、遠くからルークの呼ぶ声がした。
ルーク「おーい!オヤジ、必要な資材を持ってきたぞ!
オセたちが、まだまだ運んでくるけどなっ」
そうだ、風車作りはもう、始まっているのだ。
木材は牧場や農場の連中を中心に森で集め、
石材や鉄材は、鉱山地区の連中で鉱山に入って集めた。
他にも、風車のつばさに使う帆はセラフさんやコトミちゃんたちが引き受けてくれたし、
それ以外の女性や年寄りたちは、おれたちのサポートをすると言ってはりきっていた。
最初はめんどうくさいと言っていたジュリも、
今では夜おそくまでここでしごとを手伝っている。
最近はこの丘にも、風車作りをおうえんするかのようにやわらかい風が吹くようになった。
ユバ「さあさぁ、今日もおつかれさま。たくさん食べてちょうだいね」
日が暮れてくると、宿屋の面々が夕飯を作って運んでくれる。
みな、青草に腰を下ろし、
ランプの下で汗でよごれた顔を合わせてサンドイッチをほうばる。
インヤさんやウォン君らもすりキズの手当てをしに来てくれる。
たき火をかこんで、夜のホルン牧場には談笑する声がひびき、にぎわう。
おれは、みなから少しはなれたところで、ホットミルクの湯気の立ち上る先を見ていた。
おれが大工をする理由…。何かを築いていくこの感触。
こうして町に、新しい風を呼ぶシンボルができていく。
若い者たちを中心に、時代は風と共に流れていくのだ。
さて、それからひと季節がすぎる頃、風車は完成した。
羽車を回すための止め具を外して、さあ!完成の祝杯だ!というところで、
牧場の娘、リーナが叫んだ。
リーナ「まって!たいへんだわ!」
みながなんだなんだと騒ぎ始め、おれもリーナの指す方向を見ると、
なんと羽根車の部分に子猫が登ってしまい、動けなくなっている。
これは大変だ、と猫を降ろそうとするが、怯えてしまいうまくいかない。
弱ったなあ・・・。風車も動かないが、子猫も助けてやらなければ。
すると突然、ビュウと突風が吹き、舞い上がった風は子猫をふわりと抱き上げるようにして
地面に降ろした。
みな唖然としてその不思議な現象に顔を見合わせた。
だがおれはすぐにピンと来た。
最近ここに良い風がめぐるようになった理由がわかった気がする。
森に住む気まぐれな魔女たちも、
いつからかこの風車作りに参加してくれていたのかもしれない。
風車は今度こそ完成した。
おれたちは力を合わせて、この町の歴史をひとつ築いたんだ。
この町のシンボルとなった大風車は、
丘を抜ける風をいっぱいに受けて力強く音を立てて回る。
ゆっくりと青空をあおぐように、羽根車を大きく広げて陽光を浴びるさまは
じつに生き生きとして壮観なものだった。
そして年月が過ぎ、ルークに嫁さんができ、今度おれの孫が生まれることになった。
ルークは、家族もこの町のみんなも幸せにすると言って大はりきりだ。
息子よ、大工であるお前には、町を築いていく力がある。
だがそれも、みなの協力があってこそだと忘れるな。だれも大切な仲間だ。
大風車は今日も音を立てて回る。子どもたちはその子守唄で育ち、
また時代をこえてこの町の未来をになってゆくのだろう。
ハモニカタウンの新しい風となって。
END