ラクシャ ・ ハーパー ・ カパラ ・ ダ イ
◇酒場アルモニカ
街灯のともるハモニカタウン、
酒場「アルモニカ」から楽しそうな声が聞こえてくる。
ダ イ 「いい結婚式だったなぁ」
ラクシャ「そうじゃな」
カパラ 「今頃ふたりは南の空の下かね。
……あれ、今日はキャシーの姿が見えないな?」
おかわりを頼もうと思ったカパラがあたりを見回して
マスターのハーパーに問いかける。
いつもウェイトレスとして走り回っているキャシーは居なかった。
ハーパー「今日は若いの同士で集まってるようだ。そもそも
今日は店を開ける予定じゃなかったからシーラも休みだしな」
ダ イ 「そういえば無理を言って開けて貰ったんだったな、すまん」
ハーパー「まぁ、たまにはこんなオヤジだけの酒場も悪くない」
カパラ 「しかし結婚式があったせいか妙に感傷的になっちまうよなぁ。
もう、俺たちの子供世代が結婚するような年になっちまったんだってな」
ラクシャ「子供が大きくなるのは早いもんじゃ」
カパラ 「ついこの前、天地参りに行ったような気がするんだけどな」
ダ イ 「天地参りか、なつかしいな」
ラクシャ「なつかしいのぅ。あの頃はあんなに大きくなるとは思わなんだぞ」
みなそれぞれ昔を思い巡り空間を見つめた。
何か思い出したのかカパラがプッと吹き出すと、一同何事かと注目する。
カパラ 「確かルークはえらい騒ぎだったよな!」
ダ イ 「ああ、大はしゃぎで町中かけまわって、しまいにゃ階段から転がり落ちて
足くじいて写真撮る前にクリニック寄ったんだ。
帰りは俺が背負って帰ったんだよな」
額を押さえ、大きなため息をつくダイ。
カパラ 「もう子供を背負ったりできねぇんだよなぁ」
ダ イ 「そうだな…」
ラクシャ「リーナちゃんは軽いから出来るじゃろ。オセは無理だが…」
カパラ 「なに言ってんだよ、じーさん。年頃の娘に
おんぶしようかなんて言ったら怒られちまうぜ」
ラクシャ「む、それもそうじゃな。…そうか、クロエも大きくなったら
もうおぶったりできないのか…」
ダ イ 「今のうちにいっぱいしとくといいぜ」
カパラ 「ははは、その為にも足腰を鍛えておかないとな」
ラクシャ「何を言う、わしはまだまだ達者じゃわい」
親父たちの大きな笑い声が酒場中に響く。
カパラ 「マスター、キャシーちゃんは結婚まだなのかい?」
ハーパー「ああ、相手はいるみたいだけどな」
ハーパーはカチャカチャと食器を洗いながらゆっくりと話す。
ハーパー「俺が一人になったら寂しいだろうとか、……まだ、恩返ししてないとか
そんなことを言いやがる」
カパラ 「恩なんて、もう産まれた時に返して貰ってるよなぁ」
ダ イ 「まったくだ」
ハーパー「俺もそう答えた」
一人一人思いに耽るようにしばし黙り込んだ。
過ぎ去った日々は遠く、数多の思い出は色褪せる事がないとは言え少しずつ確実に薄くなっていく。
それは悲しくもあり、嬉しくもあることなのだと複雑な思いが胸を満たす。
グラスの氷が溶けてカランと高い音を響かせた。
カパラ 「おい、しんみりしてきただろ。おかわりくれよ、マスター!」
ダ イ 「俺にもくれ」
ラクシャ「わしにも頼むぞ」
ハーパー「ああ、同じのでいいか」
店の閉店時間はとうに過ぎていたが、酒場アルモニカの灯りはついたままだった。
それぞれの思い出話は尽きることなく語り続けられた。
END